歯の在庫

訓練帰りに歯の定期検診にいく。現在失業保険で生活している身として、歯のメンテナンスは贅沢かと思ってしまい、予約をしぶり続け、前回から大分期間が空いてしまった。夕方に診療してもらうのは初めてで、いままで見た中で一番混んでいた。待合室のキッズスペースで流れているアンパンマンが、見たことない回でうれしい。いつもはバイキンマンがブラックマジシャンみたいな武装している回とアンパンマン以外のみんながこぞって「アンパンマンには内緒で~す」を繰り返す回が流れている。バイキンマンのメカはいつも趣向がこらされているな。パン制作側の動作を最新にしたところで味がなくなってしまうから、バイキンマン側でバリエーション豊かにしているのか。と考えているうちに、名前が呼ばれた。

今日は定期検診と合わせて、前歯の違和感を相談。年末に急に歯茎が腫れ、その先にみのる前歯がぐらぐらして、最悪抜けるのかと思われた。わたしは前歯が差し歯。前歯が差し歯という生き恥。自分だけしか知らないのに、自分で自分が恥ずかしい。いまはもう何にしても自虐で面白くなるってことない世の中なんだろうけど、歯が全然ないってこと、面白くもないし、ただただ隠したい事実としてずっと自分の口の中にあって、その逃れられなさ。罪みたい。過去の自分の行いによるものだから実際、罰に当たるのだろうけど。じんわり、重悔しい。

一応まだある歯のことを見てもらい、どうやら差し歯の根っこが折れてしまっているそうだ。今ある差し歯を抜いて、新しく入れ直すらしい。当たり前のようにお金がないので当然ながらインプラントにはできない。また、今回問題になっている前歯だけではなく、その両サイドの歯にかけてブリッジをかけるために70,000の歯×3の用意が必要で、もろもろで30万近くなるそうだ。説明聞く前からわかっていたけど、正式に無理そう。今じゃなければいけたのかもしれないけど、とにかく今は無理だ。とすると、また金属が増えるということか。いずれ歯よりも金属の方が多くなるかもしれない。歯の在庫、残り僅か。

もっとずっと前から歯のことを大事にしたかった。言い訳に過ぎないけれど、母親が歯を磨いているのを見たことがない、差し歯をアロンアルファでくっつけるなど強行を見て育ち、歯の重要性を知ることから遠く離れた環境で育ってしまった。自立心のある子どもだったらこうはなっていなかったけど、そんなの、どうすることができたんだ。姉も妹もわたしも、もれなく金属とプラスチックの歯で生きている。さっき、自分の中だけの、逃れられない恥と思ったけど、姉も妹も同じようなものだとすれば、一人ではないので、だいぶ気が楽かもしれない。母親も、何の気まぐれか分からないけどこの前帰省したときにそろそろ歯医者にいくか~と言っていたので絶対にそうした方がいいと伝えた。歯を入れて、おいしいものを食べてほしい。歯も自分も大事にして欲しい。育ちについて他人と比べて鬱屈してしまう時期は過ぎた。どうやっても今しか生きられないから、わたしも残りの歯を大事にして、おいしいものをたくさん食べたい。老婆になってもステーキをかみちぎりたい。